"初めて"が"つくれる"に変わる場所──
小林聖心女子学院の生徒が訪れた奈良高専 Hub×Fab
ともに学び、ともに創る、異校種連携のデジタルものづくり体験
はじめに
2026年3月6日、兵庫県宝塚市の小林聖心女子学院中学校・高等学校の生徒6名と先生1名が奈良工業高等専門学校の起業家工房 Hub×Fab を訪れました。次年度に小林聖心女子学院にも新たなFABスペースを設置する構想があり、設備選定の参考やSTEAM/デジタルファブリケーションの現場理解を目的としてのご来校です。
Hub×Fabは、奈良高専が起業家育成やデジタルものづくりの実践を促すために開設した附属施設。5軸加工機-金属3DプリンタHYBRID機などの高度な設備を学生に開放し、アイデアを実装へつなげる場として機能しています。
Hub×Fabとは
奈良高専の起業家工房 Hub×Fab は、令和5年9月に開設された奈良高専の附属施設です。学生の創造力と実装力を育むために設置されたデジタルものづくりスペースで、3Dプリンタ、DTFプリンタ、業務用刺しゅうミシン、レーザー加工機など多様な機器を備えています。
「つくってみたい」を「実際につくれる」へ。
まさに今回の異校種連携のテーマそのものとも言える場です。
当日の流れ
訪問は10:30にスタート。オリエンテーションでは、須田教員から機械工学の基礎やデジタルファブリケーションの考え方を紹介しました。その後、午前:デジタルデータ制作 → 昼食 → 午後:加工・出力という流れで制作を進め、16:00の時間ぎりぎりまで制作に没頭。最後は慌ただしくも、集合写真はしっかり撮影できました。
機器見学で見えた"吸収力"
最初の見学では、以下の機器を中心に紹介しました。
・3Dプリンタ(Original Prusa MK4)
・DTFプリンタ(Roland DG Versa STUDIO BN‑20D)
・業務用刺しゅうミシン(Brother PR1055X)
・液晶ペンタブレット(Wacom Cintiq Pro 24)
・3D‑CAD(Tinkercad)
生徒のみなさんは、未知の機器にも臆せず目を輝かせながら近づき、操作原理をつかむスピードが非常に速いのが印象的でした。
3Dプリンタの造形挙動をかぶりつくように観察したり、刺しゅうミシンについて"手縫いとの違い"を積極的に質問したり。DTFではフィルムを剥がす瞬間の爽快感に笑顔が広がりました。
先生からも「設備の充実」と「運営学生スタッフの丁寧な動き」を高くご評価いただきました。
午前のワークショップ:手描きから"デジタル"へ
午前のテーマはアイデアのデジタル化です。
・手描きスケッチを液晶ペンタブレットでデータ化
・Tinkercadで3Dモデリング
・"発想→構造化→設計"のプロセスに触れる
高校1年生3名/中学3年生2名/中学2年生1名の混成チームに先生1名が伴走。学年を越えて自然に声を掛け合い「どうやったら実現できるか」を自分の言葉で説明し合う姿が見られました。
午後のワークショップ:デジタルものづくりを"かたち"へ
午後は、午前に作ったデータを実物に変換する工程です。
・DTFプリントでTシャツへ転写
フィルムを剥がす"ぺりぺりっ"という感覚に思わず歓声が。
・刺しゅうミシンでオリジナルトートバッグを制作
自分のデザインが布に縫い込まれていく過程を凝視し、完成時には小さな達成感の拍手が起きました。
・3Dプリント造形の出力
はじめての3Dデータにもかかわらず、出力可能なデータへ短時間で仕上げた姿勢は見事でした。自分の手で生み出した造形を手にとって確かめていました。
ともに学び、ともに創る
奈良高専の担当者として特に印象的だったのは、次の点です。
・小林聖心女子学院の教育方針に掲げる「知性を磨く」「実行力を養う」が、ワークショップの随所に表れていたこと
・奈良高専の運営学生スタッフや自校の先輩(お姉さん)へ臆せず質問し、学びの循環を自ら生み出していたこと
・下級生へ自然にお手本を示す姿があり、学年を超えた学び合いが自然に成立していたこと
・初めて触れる機器にも果敢に挑み、自分の作品を自分の手で完成させるまで粘り強く取り組んだこと
この異校種連携は、受け入れ側の奈良高専にとっても大きな刺激になりました。運営学生スタッフは、教えることで自分の理解が深まることを再確認し、工房運営の質向上にもつながっています。異校種連携が生み出す相互作用が、この一日で確かに育まれていました。
アントレプレナーシップ教育の観点から見えた学び
文部科学省が公表した「日本版EntreComp v1」では、アントレプレナーシップ教育を、単に「起業の技法」ではなく、機会の発見/資源の動員/不確実性・曖昧さ・リスクへの対処という3つの核となる力(コア・コンピテンシー)と、それに紐づく10のコア・スキルで捉え直しています。
また、文科省はアントレプレナーシップを「起業意思の有無に関わらず、新たな価値を生み出していく精神」と位置づけています。
今回のHub×Fabでの体験は、これらと高い親和性がありました。
(1)不確実性への耐性(マインドセット)
はじめての機器や工程にもまずやってみる姿勢が徹底しており、曖昧さに向き合いながら理解を深める態度が際立っていました。(EntreComp:不確実性に向き合う)
(2)価値創造のプロセス体験
手描き→デジタル→出力という一連の流れのなかで、資源を認識し、活用し、足りない資源を獲得する視点が自然に育まれました。(EntreComp:資源の動員)
(3)多様な他者との協働
上級生が下級生を支援し、奈良高専の学生運営スタッフと対等に対話して課題解決する過程は、学年間・学校間の協働そのもの。アントレプレナーシップの「新たな価値を生む」過程で欠かせない協働力が、場のデザインによって引き出されていました。
この一日は、「つくる楽しさ」を超えて、「未来を切り拓く力」を実地で鍛えるアントレプレナーシップ教育の実践だったと言えます。
Hub×Fabから見た意義(受け入れの狙い)
奈良高専Hub×Fabでは、今回の受け入れにあたり、以下を狙いとしていました。
・ものづくりの裾野を広げ、身近に感じてもらう
・デジタルファブリケーションの理解の促進
・異なる校種間のコミュニケーションの実践
・多様性の理解の深化
とりわけ、"初めて"を"つくれる"に変える環境(高度な設備×伴走する運営学生スタッフ×開かれた工房文化)が、自律的な学びや価値創造の芽を後押しできた手応えがあります。Hub×Fabは、起業家的人材の育成と地域への学びの開放を両立させる場として、今後も異校種連携/地域連携/産学官金公のハブであり続けます。
まとめ:学びの未来へ
小林聖心女子学院で来年度スタートする新しいFABスペースが、生徒の主体性と協働性を育てる拠点として発展していくことを心から楽しみにしています。
奈良高専 Hub×Fabとの連携を通じて、「ともに学び、ともに創る」異校種連携のモデルケースを、より多くの学校へ届けていきたいと思います。
付記
小林聖心女子学院(兵庫県宝塚市) 担当教員:柴山真木子先生
奈良高専(Hub×Fab)担当教員:教育支援センター須田敦副センター長
参加者:高校1年生3名/中学3年生2名/中学2年生1名/先生1名
奈良高専(Hub×Fab)運営学生スタッフ:3名
実施時間:10:30〜16:00(見学・WS/集合写真撮影有)
参考リンク
・奈良工業高等専門学校 起業家工房Hub×Fab(施設概要)
https://www.nara-k.ac.jp/institution/venture_factory/
・奈良工業高等専門学校 Hub×Fab 設備一覧(主要機器)
https://www.nara-k.ac.jp/institution/venture_factory/equipments/
・小林聖心女子学院 公式サイト(教育方針・12年一貫)
https://www.oby-sacred-heart.ed.jp/tokushoku/
・文部科学省 日本版EntreComp v1
https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/mext_00027.html
・文部科学省 全国アントレプレナーシップ人材育成プログラム(定義・取組)
https://entrepreneurship-education.mext.go.jp/