ABOUT

米子高専について

山陰から、光を放つ実績を。
米子高専の研究者としての矜持。

米子高専の谷藤尚貴教授は、化学系の材料合成の専門家である。電池内の化合物の研究を行い、これまでにない容量を持った電池を開発することを目標としている。大学院や研究機関に所属した経験から、いかに高専が独立の気風を持っているかについて語る。

社会実装を研究の最終的な目標とする姿勢は、学生たちにはどのように受け止められているのだろう。自身の研究を奇想天外と評する研究者による、高専の面白さと教育の本質についてのインタビュー。

PROFESSOR

谷藤教授インタビュー

「ゼロからのイノベーションをするためには、
高専という選択肢はアリなんじゃないかな。」

具体的に、どんな研究をされているのですか?

谷藤

例えば携帯電話を始めとする電子機器は、普通に使うと1日ないし2日で電池が保たないですよね。つまり、電池の容量が限界に来ているわけです。もし仮に、同じ体積で5倍の容量の電池ができたとすると、1回の充電で一週間ワークできる。充電なしで5倍の長さの動作ができる機器になるか、または5倍の性能で1日中使える機器になるか。そのために5、6倍の容量になる電池のための材料提案をしているんです。試作段階では、その狙いは達成できていて、学術会や特許を発表する会ではすでに提案もしています。そして、いくつかの企業と共同研究という形で開発をすすめているんです。

そもそも電池の容量を上げる際のブレイクスルーとなったのは、1990年代のリチウムイオン二次電池。古い携帯電話を使っていた方はご存知ですが、すごく使用時間が延びましたよね。ですが、そこから30年、技術はあまり伸びてないんです。マイナス極のリチウムという素材は、化学物質の中ではベスト。もうこれ以上はないだろうというモノなんです。その代わり、プラス極の方にはまだ課題があるんです。

どういった経緯で、
電池の研究をされるようになったのでしょう。

谷藤

国際会議に出席した際に、たまたま米子高専の卒業生である、国内有名メーカーの電池開発者と知り合ったんです。米子高専の卒業生が、リチウム電池をやっているなんて、まさに自分の分野じゃないかと(笑)。なんたる偶然ということで、共同研究を始めたんです。2010年ごろの話ですね。我々は物質合成を専門にしていて、その材料をそこの研究所で評価してもらったところ、いい結果が出ていると。そうやって特許を取得しながら研究を深めて、さらに他の企業とも組みながら、今に至るという経緯です。最初の出会いが幸運で、非常にオープンな関係で研究を進められたことが大きいですね。

そもそものスタートは、1990年代の後半に、自分が大学院の修士の時に扱っていた化合物、当時は単に新しい反応を作って、新しい化合物を作ろうとしていただけですが、いつかその材料を使って何か役に立つモノを作ろうと考えていたんですね。たまたま読んだ論文の中に、その化合物に似たものが電池に使えるという研究があったんです。いつか自分のこの材料でも電池を作ろうというアイディアが浮かんだのが2000年代初頭。その後、いろいろな研究所に勤務したりして、2008年に米子高専に赴任して、いよいよ立ち上げてみようと。

教師にとっても高専は、非常にありがたい場所なんです。若くして独立した研究室をもらって、実験ができる。30代半ばから、自分の研究を始められたので、今こうして、成果が出せていると思います。ラッキーだったなと(笑)。

教師にとってのメリットは、
同時に生徒たちにも還元されているのでしょうか?

谷藤

そう思います。高専では研究者の個性も出しやすいんですね。大学では絶対にやらないような研究も、一人で独立してやることができる。この電池もまさにそうですが、偶然の発見もあったりして、大学ではなかなか生まれない研究だという自負はあります。高専生は良くも悪くも、専門知識の学習段階が未完成なうちから研究に携わるんですね。すると先入観なく実験に取り組んでくれる。それは新しい研究においては、非常に大きなメリットになるんです。ゼロからイノベーションをするためには、高専という選択肢はアリなんじゃないかと。

GEARで、こうしていくつかの高専と組んで研究をする際には、全員が専門分野に特化した先鋭的な研究をするだけではなく、例えば長岡は太陽電池の分野では王道ですし、それぞれ異なるアプローチで進んでいます。するとどこかにそれぞれの強みを持ち寄って融合するチャンスが出てくるのではないかと思うんです。

谷藤先生は、他にも色々な研究をされていますね。

谷藤

はい、変なものばかりやってます(笑)。例えば、卵の殻の内側にある皮膜を剥いて、それを燃料電池の材料にしてしまう研究とか。殻の膜と、炭酸水で電気を作るという奇想天外な研究なんですが、アメリカ化学会雑誌に掲載されました。これはもう大当たりか、大外れの研究だなと思って投稿しました(笑)。

私は昔から、自分の製品を世に出したい、最終的には研究を社会実装で終わりたいという意識が強いんです。せっかく高専において“城”をいただいているので、企業でも大学でもできないけれど、やりたかったモノをやっておくと、様々な連携の機会がのちに生まれるんですよね。共同研究や企業の方が来たら、学生にも必ず参加してもらってます。すると、やっぱり授業で習ってきたこととは全く違う話が聞ける。学校で習っていることと、企業のニーズとの差異、あるいは新しい話も聞けることが学びになります。

化学系の企業は山陰地区にはほとんどないので、卒業後の就職が県外になることが多いんですね。でも、今の時代は、情報はどこからでも取って来ることができますし、サイエンスという共通言語があって、イノベーションの強さがあれば、米子でも世界に光を放つものは作れると証明するつもりでいます。そのプロセスを学生たちに間近で見て体感してもらいたいんです。

STUDENT

学生インタビュー

3人の学生が語る、
高専での研究生活と未来像。

那和 洸星

(専攻科1年)

電極の材料として、物質を変えながら材料合成をして、目的の物質を作ろうとしています。実験はうまくいかないことの方が多いのですが、どうしたらうまくいくのかを考える過程に新しい発見があって、回り道しながら進めています。その試行錯誤こそ、研究の面白さだと思います。全部がうまくいったらつまらないですから。

高専では、早い時期から実験をしているアドバンテージがあると思います。基本的な知識を本科で学びつつ、研究にも携わることができる。同時に先生の外部のコネクション、例えば企業の方の話を聞くことができるのも、メリットだと感じてます。論文の書き方を教わるのと同時に、研究者としてのあり方を学んでいるというか。僕は大学院に進学して、どの分野になるかはわかりませんが、研究したいと思ってます。

壷内 健太郎

(本科5年)

東日本大震災の際に「人のために何かをしたい」と思って、陸上自衛隊高等工科学校に通っていたのですが、膝を怪我してしまい、自衛官を諦めて高専に転入したんです。中学の時に化学が好きだったからという理由でしたが、谷藤先生と会って、研究に対する気持ちは強くなりました。創造実習の授業で、先生と意見が食い違って、討論になったのですが、その後に谷藤先生は「やる気があるなら、うちに来い」と誘ってくれました。

今は卵殻と石膏を混ぜて、PM2.5に特化した吸着剤の研究をしています。米子は偏西風の影響でPM2.5が飛来するので。自衛隊の学校に行っていた当時から、気持ちは全然変わらないんですね。今度は、知恵とか技術で、誰かの役に立ちたい。人を助けたい。そのためには探究心を大切にして、気になったら即行動を心がけています。

塚口 湧太

(本科5年)

先輩方の研究を引き継いで、卵の膜で水の中の物質を吸着するという研究をしています。これはPM2.5の環境問題に応用できる技術なのですが、前例がないんです。なので、手順書もない。一から実験を組み立てる必要があるんですが、失敗したら改善しての繰り返しなんです。それが進歩の意味だと思うんです。失敗してよかったなと、後から思うから。

先生に報告はしますが、実験は自由にやっていいんです。その自由さが考える機会になってます。将来は、環境問題を解決する研究を行いたいと思ってます。やっぱり自分で研究を組み立てる面白さを教えてもらってますし、社会実装をして、社会に良い影響を与えることが、研究の目標だと思っているんです。

  1. 01

    NARA

    奈良高専

  2. 02

    HOKKAIDO

    苫小牧高専

  3. 03

    NAGAOKA

    長岡高専

  4. 04

    YONAGO

    米子高専

  5. 05

    MIYAKONOJO

    都城高専

  6. 06

    WAKAYAMA

    和歌山高専

INTERVIEW

高専を卒業した研究者に聞く、
高専で学ぶことの意義。

高専が育む未来 GEAR5.0の現在値