01

心を割って話し合える、
信頼する研究者がいる安心。

金井綾香 助教 (長岡技術科学大学)

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母校で改めて感じる、
高専生の手が動く姿。

松本充央 特命助教 (奈良工業高等専門学校)

PROFESSOR

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心を割って話し合える、
信頼する研究者がいる安心。

金井綾香 助教 (長岡技術科学大学)

まずは、研究内容について教えてください。

金井

長岡高専時代に荒木秀明先生のところで研究していた内容と基本的には同じです。真空の清浄な空間で、太陽電池の心臓部である半導体を研究開発することによって、発展途上国や一般家庭に、より低価格で手ごろな形で普及したい。そのための材料を開発しています。安価で、毒性もなく、高い変換効率という、すべての要素を兼ね備えた半導体材料を探しながら、太陽電池装置を作っている、というのが研究の大枠です。

太陽電池は、さらなる研究開発をしなくても、すでに製品化されて、住宅の屋根にも乗っています。今後大きなインパクトとなるような研究ではないのかもしれません。ですが、太陽電池はp型半導体とn型半導体をくっつけたデバイスで、非常にシンプルな構造をしているんですね。それはつまり、材料の特質がわかりやすく見えるということ。ですから、現在、研究しているのは太陽電池ではあるんですが、いい性能が出る材料は、結局のところ他のデバイスでも応用が効くんです。それに、学生を指導する際にも、複雑な構造のデバイスを作るとなると、材料開発ではないところに大きな労力が必要となってしまうので、「シンプルな構造で材料開発をしよう」という方が、わかりやすいですよね。

現在の研究も、高専時代の延長線上にあるということですか?

金井

はい、荒木先生とは今も共同研究をしていますし、主軸はそこにあります。今、主に扱っているのは硫化物で、硫黄蒸気で構成された半導体材料の研究をしています。物性的には非常にいい値を示しているにも関わらず、薄膜を作ることが難しく、まだまだ開発する伸び代はある。うまく作れ、かつ工業的な生産につなげられるような成膜方法を開発できれば、もっといい研究ができるのではないかと。
もちろん、荒木先生の研究室と同じ実験をしても意味がないので、私はオリジナルの装置を作ることによって、また違う物性のものができないか、さらに広げていこうと考えています。

具体的には、半導体を成膜するための装置をいくつもつけて、同時に異なる元素をつけられるように改造したり、放射温度計で薄膜の最表面をリアルタイムで観察しながら成膜したり。企業にお願いすれば作ってはもらえるんですが、自分で装置を作ることで、その欠点にも気づくことができるんです。

近くに荒木先生がいらっしゃるので、非常に協力していただけているんですが、やっぱり違いをどう見せるか、悩んでいるところではあります(笑)。

高専に通ってよかったと思いますか?

金井

研究者はそれぞれ領域がバラバラで、課題を共有できる人がほとんどいないんですね。その意味では、荒木先生が近くにいて、相談できる環境は非常にありがたいですよね。年を重ねるごとに痛感しています。

私は長岡高専の専攻科を出て、修士から他大に移りましたが、学生の時には高専の良さをあまり理解していなかった。環境が変わった分、早く慣れなければという思いの方が強かったから。ただ、博士を卒業後に、アカデミックの世界に残ることを選んでから、研究者の先輩として荒木先生と話す機会が多くなって、自分が恵まれていることに気づきましたね。

それから、やっぱり業績について。論文や学会発表などの研究業績は、高専は非常にアドバンテージがありますね。一般の大学生が遊んだり、アルバイトしたりしているときに、高専生はもう研究を始めている。特に荒木研は、どんどん発表しなさいという研究室だったので、研究者としてはとても大きなアドバンテージでしたね。

やはり研究業績は、キャリアにおいて重要なんですね。

金井

それだけではないと言われますが、やはり一番の判断材料ですよね。特に私のようなまだ若い研究者は、「質」よりも、きちんと論文を書いているか、発表できているかという「数」を見られることが多いんです。すると早くから研究させてもらえる高専は、環境的に非常に有利なんですね。他大に入る際にも、研究のフレームワークを理解した上で進学している学生を見ると、一歩、先に踏み出している感じはあります。アカデミックな世界だけではなく、企業に就職する際にも同じことは言えると思います。

高専から他大に進むことも価値あることでしたか?

金井

進学する場合には、大きく環境が変わるので、すごく大変ではあります。私も適応するのに、すごく苦労しました。ただ、大学院に進んだことで、一つの研究室にとらわれない生き方ができたと思っています。大学でアカデミックに残る場合には、修士、博士、ポスドクと同じ研究室で進んでいくのが、一般的ですよね。けれど高専生は、大学に進む際に、必ず研究室が変わるんです。これは研究室によって方針が全く違うことを知る上では、非常に大きいと思います。単に研究内容についての話だけではなく、人生経験としても大きかった。当時はまだわかっていませんでしたが、学生を指導する立場になってよくわかりますね。

私は高専専攻科から、修士に行って、一度社会人になって、博士の時にはまた別の大学に行ったんです。転々としていて、それが研究者としてはコンプレックスでもあったんです。でも、博士を卒業の頃に、「それが君の人生の中で、非常にいい武器になるよ」と言ってくれた方がいたんですね。確かにそうかもしれないと、その“廻り道”がポジティブなイメージに変わりました。環境が変わって不安な学生たち、自分と同じ境遇の子たちがきっとたくさんいるはずで、そういう学生に寄り添えるのは、私のように転々としてきた先生だと思うんです。

PROFESSOR

02

母校で改めて感じる、
高専生の手が動く姿

松本充央 特命助教 (奈良工業高等専門学校)

まずは、研究内容について教えてください。

松本

私自身が学生時代から進めている研究と、現在、奈良高専において山田裕久研究室のメンバーとして携わっている研究と、まったく違うものを並行して進めています。前者は、数年前にノーベル物理学賞を受賞した技術である、光ピンセットについて。具体的に説明すると、顕微鏡の対物レンズで光を集めると、まるで引力のような力が働きます。すごく弱い力なんですが、顕微鏡サイズの世界では無視できない強さなんです。マイクロサイズの微粒子のようなものが、レーザー光の引力で、ピタッと捕まえることができる。そのレーザー光を動かすと、追随して捕まえた微粒子も動くので、まるでピンセットでものを捕まえて動かすように見えることから、光ピンセットという名前がついています。ちょうど細胞や赤血球のサイズに相当するので、生物分野の人が着目して使い始めたんですが、それを化学の分野でも応用しようじゃないかと。私は水の中の物質を対象に、溶液の中の高分子を捕まえて、選択的に分析する、ということをしています。

光ピンセットの技術を応用しながら研究していると。

松本

はい。強いレーザー光を使うので、どうしても副作用として熱が発生してしまいます。光ピンセットを扱う研究者たちには、邪魔なもので、なぜかと言えば熱は対流を発生させ、外に向かって動く力が働いてしまうから。捕捉していた微粒子が外れてしまうんです。いかに熱発生を抑えつつ光ピンセットをするか、という考え方が主流だったんですが、私はそれを逆手に取るというか、積極的に熱発生を利用してやろうじゃないかと思ってます。

室温だと均一に溶けている高分子があるんですが、見た目にも完全に透明で、ただの水にしか見えない。ただ、ある程度以上に加熱すると瞬間的に凝集して、牛乳みたいに白く濁るんですね。レーザーを当てたところだけ加熱され、凝集現象が起こって、ある程度の大きさになったものを光ピンセットで捕まえる。専門的には、相分離現象と言いますが、その凝集の状態を調べています。

奈良高専で、山田先生と共同研究をするようになった経緯を教えてください。

松本

大学院で博士号を取った後には、千葉大学のレーザーの先生のところで、ポスドクとしてお世話になっていました。なので大きく専門分野は変わっていなかったのですが、少し研究成果が出始めて、「次のキャリアを考えて動き始めてもいいよ」と言っていただいて、色々と公募を調べていた時に、たまたま母校の奈良高専のポストを見つけたんです。電気化学の研究室だったので、まったく違う専門分野だったんですが、山田先生が研究されているイオン液体には、学生時代からずっと興味があったんです。ずっと水系でやってきたんですが、その溶液をイオン液体にしたらどうなるのか、興味があったわけです。しかも母校で安心できる(笑)。関西にも戻って来られるということで、応募したんです。

異なる分野の研究に抵抗はありませんでしたか?

松本

まったく違う技術を持っていらっしゃる先生なので、盗めるところは盗んで、自分のオリジナルの技術に融合させていきたい、と思っています。今までのままは、良くも悪くも学生からの延長でしかないんですね。そのまま千葉大の研究室にいても、指導教員の先生は越えられないですし、同じことをやっているだけでは意味がないですから。

光ピンセットの分析では、もう一本同じ場所に分析用のレーザーを入れて、スペクトルを取ったりする、分光分析を行います。私の専門は分光分析なので、山田先生からはイオン液体の基礎的な構造、物性を分光学的な立場から調べてほしいと言われています。

イオン液体の合成技術も、共同研究先に教わるように派遣していただきました。今は、自分の研究を太くするために、一つ一つスキルを身につけていっている過程でもありますね。

現在、母校である奈良高専に、特命助教という立場で帰ってきています。
高専に対するイメージ、考え方に変化はありますか?

松本

学生の時から今でもずっと、すごくいい場所だと思っています。もちろん学生時代には見えていなかった側面として、大学と比べると見劣りする部分も少しはあると思います。どうしても大学の先生方からは、高専の先生が一歩下に見られがちで、それは高専OBとしては悔しく思う部分でもあるのですが。ただ、奈良高専は全国の高専の中でもトップレベルの研究の質があるので、まったく問題ない。先生方も定期的に論文を出されて、研究者としての実績も上げていらっしゃいますから。

高専では1年生の時から毎週、学生実験がありますが、それだけ手を動かす機会があるのは、とても素晴らしいことなんです。大学でも、場合によってはそこまでできない。大学の先生に聞いても、「高専卒業生は、よく手が動く」という共通認識を持ってらっしゃると思います。大学院生に比べると知識で劣る部分はあるかもしれないけれど、それを補ってあまりあるほど、手がとにかく動く。だから、「わからないけど、とにかくやってみよう」というマインドがある。それは研究者にとってはとても大事な要素だと私は思います。

先生自身も、高専から大学に編入した時に、そう思われましたか?

松本

はい、本人はあまり意識がないけれど、かなり鍛えられているのは間違いない(笑)。私は多分、高専に入っていなかったら、研究者にもなっていなかったと思います。

INTERVIEW

高専を卒業した研究者に聞く、
高専で学ぶことの意義。

高専が育む未来 GEAR5.0の現在値