ABOUT

奈良高専について

奈良高専が取り組む、
燃料電池の研究と教育。

災害時に使えるエネルギーとして、どういうものが社会実装できるのか。

その具体的な研究を行う「GEAR」の取り組みにおいて、奈良高専は二次エネルギーの分野で核となる研究を行っている。

一次エネルギーとは、加工されない状態で供給されるエネルギー、つまり石油や太陽光など、地球や太陽などの自然エネルギーを利用したもの。その一次エネルギーを転換、加工して得られる電力などが二次エネルギーにあたる。奈良高専では、その中でも、水素やリチウムを利用した燃料電池に関しての開発を請け負っている。

「GEAR」を推進するメンバーの一人である山田裕久准教授が取り組んでいるのは、次世代の車に搭載するような先端的な電池に関しての研究だ。その成果が、防災や減災という観点において、どのような役割を果たすことができるのか、一つの重要なテーマに掲げている。連携エネルギー・マネージメント・システム(EMS)の設備を持つ苫小牧高専と協働しながら、その成果を検証している。

山田准教授と研究室に所属する3人の学生たちに、研究そのものについて、さらには高専で学ぶ意義や未来像について聞いた。

PROFESSOR

山田准教授インタビュー

「教育と研究はどこまでいってもセットなんです」
山田准教授が考える、学生と歩む社会。

燃料電池に関する研究について、
具体的に教えてください。

山田

そもそも燃料電池は、ジェミニ計画やアポロ計画など、宇宙開発で採用、実証されてきた技術なんです。それを民生用に開発していったのが、例えば東京ガスの〈エネファーム〉だったり、トヨタの〈MIRAI〉だったり。特に自動車に関しては、2050年までにカーボンニュートラル社会を実現するために、乗用車だけでなく、多様な乗り物が水素で動くことが求められています。船やトラックなどの非常に重たいものを動かすことは、現在の燃料電池の性能ではフォローしきれない。私は今、〈NEDO 国立開発研究法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構〉にも参加し、次世代の乗用車のためのスペックアップを担当しているんですが、その先にはヘビーデューティーな重量物の世界を視野に入れながら開発を進めています。

水素を酸化する反応と、酸素を還元する反応、二つが合わさって、燃料電池は水を作りながら発電するんですね。つまり水素を燃やし、それを電池のエネルギー源にして、運動エネルギーとして取り出していく。その水素を燃やす際の酸素の還元反応において、実は技術的なブレイクスルーが必要になっていて、そこをなんとかクリアするための技術開発を行っています。

今、研究しているPEFC、固体高分子形燃料電池というものは、膜が酸性なんですね。なので、貴金属では酸に溶けないものしか使えない。だからカーボンなど比較的、安定した物質しか使えないんですが、それは非常に高価になりがちなんです。実用化して大量生産した場合に、最後にボトルネックになるのは、燃料電池の構成部材の中での貴金属の価格なんです。この価格をできるだけ下げながら、同時に耐久性を上げるというトレードオフの関係をクリアしながら、さらに性能を上げていく。かなり難しいことにチャレンジしています。

費用対効果を上げながら、
素材の持つポテンシャルを最大限に引き出していく。
それが社会実装においては重要だと。

山田

はい。これまでも先人の先生方がいろんな技術を試して、かなり究極に近いところまで試されているんですが、さらにその先、今までの常識の中にはなかったような検討を行っている段階と言えるかもしれません。今までは触媒合成において、いかに白金の量を減らすかについての研究が主体だったんですが、私の研究は、白金の外部環境を調整することで、白金自体の性能を上げながら、耐久性を上げることを試しています。

社会実装という意味では、将来的に燃料電池が
車社会の主なエネルギー源となるかどうかはまだわかりません。
社会がどういう方向へ進んでいくかを見極めることも、
研究者として求められるのでしょうか?

山田

それぞれのエネルギー源には、利点と苦手とする分野が必ずあるので、それぞれの研究が進んでいけば、究極的にはEV(電気自動車)と燃料電池のハイブリッド車だってあり得るかもしれない。もちろん家電製品と同じように、「この方式がいい」と社会が決定した際に、燃料電池が完全に視野から消えてしまったら、それは廃れる技術になる可能性はあります。

水素に関して言えば、インフラ整備とセットで考える必要があるので、我々の技術が進んだからといって、即座に実現するかといえば、そうではない。提示する未来像が魅力的で、社会が選んでくれるようにするしかないと思いますが、選ばれなければどこまでいっても化石燃料から抜け出せないのでは?とも思います。EVも充電が必要ですから、どのエネルギー源から充電しますか?という話です。水素も同じように、どのエネルギーから水素を作りますか?という話なので、経済性も含めてトータルで取捨選択されていくのでしょう。

あるいは研究を進めていく中で、現在、最も苦手にしている酸性領域での燃料電池が、まったく違う領域での燃料電池みたいなものの開発もあり得るかもしれません。技術革新も常に、世界との兼ね合いだと思ってます。

研究の成果によって、未来は変わり得る、というお話は、
学生たちのモチベーションにもつながるのではないでしょうか?

山田

そうですね。国のプロジェクトに取り組みつつ、企業とも提携しながら進めているので、世の中に求められている研究に学生の間に触れ、ある程度の責任を持って取り組むことは、重要な教育だと考えています。もちろん大学でも同様だと思いますが、高専ではその先端的な研究に携わる年齢が若いですよね。大学院生に混じって研究発表することも多々ありますし、学会に出席してその空気を感じることもある。私が話すことだけではなく、将来には「こういう世界が待っているんだ。年齢は若いけど、負けないぞ」というような気持ちを涵養できたらと思ってます。

高専でも低学年のうちはテーマを設定して解決していく形の教育で良いと思うのですが、高学年になったら自分から課題を見つけて、それを克服していくような教育が、本当の意味でのアクティブラーニングになるのではないかと思っています。

大学はまず研究ありきだと思いますが、高専にとっては、教育と研究は、どこまでいってもセットなんです。学生が育たなければ我々も研究できない。低学年からの教育と、そこから伸ばしていく研究がきちんと一体化して進んでいくように、こだわって教育をしているつもりです。エネルギー分野は、非常に高額な実験機器が必要だったりもするのですが、大阪大学や大阪市大と連携し、共有するような取り組みも行っています。単に機器借りるのではなく、こちらからも研究の成果を明らかにして、知恵を出し合いながらどうやったら設備を維持し、新規導入しつつ、社会貢献ができるのか、考え続けていく必要がありますね。

たとえ先端研究をしていても、社会実装を視野に入れている。
つまり、低学年からの教育が、社会まで一本筋が通って考えられていると。

山田

はい、私はそう考えています。研究の成果だけを見れば、大学と同じかもしれませんが、その関わり方はまったく違います。私の研究室には、低学年を含めて9名在籍していますが、これだけの人数ならばどんな課題にぶつかって、悩んでいるのか、把握できますから。学生たちがどんな未来像を描き、どんな社会を作っていくのか、その際にどんな技術が必要なのか。一緒に構築していくのが高専にとっての教育だと考えています。

STUDENT

学生インタビュー

3人の学生が語る、
高専での研究生活と未来像。

安藤 うた

(専攻科1年)

中学3年生の時にニュースで水素電池を知り、エネルギー問題が気になっていたこともあって、高専で燃料電池の研究を行うことを選びました。世界中で研究されていて、同時にSDGsにつながる社会的なテーマですから、視野が広がると考えたんです。それは「ドラえもん」の道具ほどは遠い未来ではないけれど、現在、社会実装されているわけではない、近い未来の目標のような感じがしています。

高専にいるとつい視野が狭くなってしまいがちですが、山田先生は外部の人とも積極的に連携して、厖大な仕事をしていますから、世界を広げていただいている感覚は持ってます。それはプレゼンだったり、思考力だったり、いろいろなスキルを早いうちから身につけることができているのだと思います。

実は、私は大学院ではまったく違う分野の勉強をしたいと思っていて、もう一つ小さい頃から好きだった植物学を研究したいんですね。ですから今、担当している燃料電池の触媒の研究が直接的に役に立つかどうかは正直わかりません。ですが、まったく違う発想を実験に落とし込んだり、研究に取り組む姿勢みたいなものはきっと活かせるはず。高専は私にとって、視野を広げてくれた場所なんです。

大井 佑莉

(専攻科1年)

小学生の頃から、実験が好きだったんです。
なので、山田研究室でグローブ・ボックスや珍しい実験機器を見て、これは!と思ったんです。現在は、塩なのに融点が25度というイオン液体を用いて、白金の反応する場の実験を行っています。正直に言って、今はまだ測定結果を見て、それが意味することすべてを理解できていないんです。違いが表れたとして、その違いが何なのか、きちんとわかってない。でも、わかることが少しずつ増えていけば、次の謎が見つかるはずで、研究室にいる間に先輩方や山田先生に教わりながら、自分から課題を見つけて調べられるようになりたいんです。専攻科に行くことが決まっているので、これからあと3年研究室にいられるんですね。その専門性は、高専でしか身につけることができないし、2年生のときにもらった教科書は、大学院でも使えるもの。当初は迷子のようになりましたが(笑)、初めから大きな場所、後につながるものを提示してもらえたことがモチベーションになってます。

この年齢で研究に携わることができているのは、特別なこと。燃料電池は変化が激しい分野ですから、大学院を卒業する頃5年後には、きっと市場も拡大しているはず。期待もあり、心配もあるのですが、何より今は、「自分が何をしているのか」をきちんとわかるようになりたいと思っています。

栗原 悠花

(専攻科1年)

自分のやりたいことが明確にあったわけではないんです。それよりも社会貢献に重きを置いて進む先を考えています。ですから燃料電池に関しては、SDGsや温暖化を頭に置きながら、研究を行っています。具体的には、リチウムイオン電池の実用化に向けて、高電位、高温にしても発火せずに静電容量が出せるのかをイオン液体を使って調べています。

研究室に入るまでは、具体的な社会実装が見えないような実験をやり続けるのかと思っていたんですが、やるべきことが見えているテーマだと思っています。

研究がうまくいかなければ、まず自分で考える。それでもわからなければ、近しいテーマを研究している人、私の前任の先輩に相談したりもしています。ですから、研究の中で力がついていくゼミなのではないかという実感がありますね。私は大学院に進学して、その後はメーカーに就職したいと考えていますが、社会のために何ができるのか、その種を高専にいる間に見つけ、考えられていることは、とても意味があると思っています。

  1. 01

    NARA

    奈良高専

  2. 02

    HOKKAIDO

    苫小牧高専

  3. 03

    NAGAOKA

    長岡高専

  4. 04

    YONAGO

    米子高専

  5. 05

    MIYAKONOJO

    都城高専

  6. 06

    WAKAYAMA

    和歌山高専

INTERVIEW

高専を卒業した研究者に聞く、
高専で学ぶことの意義。

高専が育む未来 GEAR5.0の現在値