ABOUT

苫小牧高専について

苫小牧高専が考える、
寒冷地のエネルギーシステム。

寒冷地という地域的な特徴を活かした研究を行なっている、苫小牧高専の菊田和重教授。冬季には、本州の7〜10倍もの電気エネルギーが必要とされる北海道で、再生エネルギーを使い、ゼロカーボンを実現することは可能なのか。ヒートポンプによる熱エネルギーの利用、さらには水素を利用した燃料電池自動車など、さまざまな要素を複合的に組み込んだシステムの構築を目指しているという。

スマートハウスでさまざまなシミュレーションと実験を繰り返しながら、研究と地域への実装を結びつけていく。菊田教授の研究、そして学生たちの思考について聞いた。

PROFESSOR

菊田教授インタビュー

「地域の課題を吸い上げて、
学生と一緒に取り組んでいく。
その過程で、アカデミックな研究テーマも
見つかるはずです」

菊田教授の研究について、
まずは全体像を教えてください。

菊田

寒冷地におけるエネルギーシステムを構築したいんです。再生可能エネルギーと聞くと、多くの人は電気をイメージするかと思うのですが、熱エネルギーを供給しなければ、北海道でのゼロカーボンは難しいだろうと。膨大な熱エネルギーが必要とされるわけですが、では、どういう形で供給するのが良いのか。さまざまな要素を研究しています。自分の家で生み出して、自分のところで消費する、クローズドなシステムを作り上げたいんです。

将来的にはモバイルと組み合わせた形も考えています。寒冷地では電気自動車(EV)よりも、燃料電池自動車(FCV)の方が効率良いだろうと。北海道では11月から車でもヒーターが必要ですが、電気から熱エネルギーを作り出そうとすると、変換効率があまり高くないんですね。そのために電気を使ってしまうと、今度は航続距離が短くなってしまう。だから寒冷地ではEVはあまり向かないと考えています。

そこで、ソーラーパネルで作った電気で、水電解をかけて、水素を作り上げる。非常に純度の高い水素を作り上げて、それを蓄える。そのためには家に水素を貯蔵しておくためのタンクが必要ですが、加えて、FCVに直接供給するという想定もできるでしょう。必要な時にはその水素を使って走り、FCVが家に帰ってきたら、今度は家の中にエネルギーを供給するようなシステムができたらと思っているんです。

寒冷地のエネルギーシステムのために
必要とされる設備や条件を実験していると。

菊田

そう、まずはハードですよね。どんな設備が必要になるのか。さらに、ハードをコントロールする高度な制御についても作り上げていく必要があるだろうと。どれくらいの電気エネルギー、熱エネルギーが必要で、どれくらい生み出されるのかということを、予測、学習していく。おそらくAIの仕事になっていくでしょうが、そのシステム作りをやっていきたいと思ってます。

敷地内には、独立した一戸建て、いわゆる外部から電気を引かずとも、
自家発電できるスマートハウスがあります。

菊田

電気を作るソーラーパネルだけでなく、太陽光の熱エネルギーを利用するためのモジュールなどもあります。電気に変換する際には、半導体の性能から上限20%ほどの変換効率しかないですが、熱は60~70%の変換効率。冬の苫小牧でも雪が載っていなければ、70℃のお湯が作れるんですね。それを暖房に使わない手はないだろうと。

それから、地中熱を使うヒートポンプにも大きな期待を寄せています。ヒートポンプは非常に優れたもので、1のエネルギーを投入して、5~6倍の熱エネルギーが回収できる装置です。本州ではおそらく冷熱の回収の方が多くて、いわゆるエアコンですよね。どこからそのエネルギーを持ってくるのかと言えば、空気であったり、地中であったり。絶対零度、マイナス273℃に比べれば、苫小牧の冬がマイナス20℃でも、膨大な熱エネルギーを持っているわけですね。ただし、それだけ寒くなってしまうと、熱交換器に霜がついたり、性能が極端に劣化してしまう。ですので、空気ではダメだと。でも、地中ならば、非常に安定した熱源になる。なので、50〜100mの深さから熱回収をしています。

今までの方式のほとんどが熱採取のものだったんですが、我々は今、井戸型のヒートポンプで、地下水から熱を奪って、奪い切ったらまた新しい地下水を入れて、熱を奪った地下水はまた地中に戻していく。そういう循環システムを作り上げています。

井戸型ヒートポンプに寒冷地の
再生可能エネルギーの未来がありそうですね。

菊田

土壌から熱採取をする方式に比べると、地下水のシステムでは5~6倍の性能が出るんです。今まで、いいものだとはわかっていたけれど、コストがかかってなかなか普及していかなかったんですが、地下水メインの方式ならば、今までよりも性能が良く、かつ5分の1から10分の1のコストで賄うことができます。

うまくコントロールすれば、マイナス20℃の北海道でも、1のエネルギーを投入して、どうにか6倍で成立させたいと思っているんですが、それだけの熱回収ができるシステムになる。するとエネルギー消費が5分の1、6分の1となりますよね。北海道では、人口は半分以下ですが、冬季には首都圏と同じくらいのCO2を出しています。この熱エネルギーをどうにかうまく作り上げていかなければ、北海道のカーボンニュートラルはなかなか難しい。そのために、ヒートポンプや水素も絡んだモビリティとの組み合わせ、そうした発展形を考えています。

これまではそう言った各論の要素研究がメインだったんですが、これからはそれらを軸にシステム化を図って、制御のところまで考えていきたい。さらにゼロエネルギーハウスのみならず、ゼロエネルギーの街づくりまで貢献できないかと考えています。

学生たちとは、
研究においてどのような取り組みをしていますか。

菊田

実験ハウスからさまざまなデータは出てきますが、あくまで限定的なものです。その実験データと検証を照らし合わせながら、運転条件や境界条件を変えて、複雑な熱移動のメカニズムを明らかにしていこうと。もしも明らかにすることができたら、今度はどこから地下水を取り入れて、どのタイミングで排水して、不凍液の流量はどれくらいにすればいいのか、最適化していく。各種パラメーターを最適化するためには、実験データ+シミュレーションしかないんです。そうした課題にディスカッションしながら取り組むことで、北海道の問題点がよくわかるはずですから。

地域の課題に密接に取り組んでいることが、高専の利点だと思ってます。アカデミックにディテールを深く追求していくというよりは、地域の課題を吸い上げて、一緒に取り組んでいく。熱移動のメカニズムは、なかなか難しいテーマではあるんですが、地域から一緒に解決しましょうという声があれば、学生たちもリアリティを持ちやすいですよね。自分でシミュレーションをして、その会社の人に説明するところまで任せています。それも教育の一つですから。また同時に、地域の課題に取り組む過程で、アカデミックな研究テーマも見つかるはず。実践を行う中から、研究者としてのテーマも見つけられるのではないかと考えています。

STUDENT

学生インタビュー

2人の学生が語る、
高専での研究生活と未来像。

秦 悠貴

(本科5年)

どのような熱気流が、その空間内においてもっとも効率が良いのか、簡易的なモデルを作って、シミュレーションしています。とある会社の工場をモデルにシミュレーションしてますが、うまくいけば実装される可能性もあるんです。ファンをどこにつければ、もっとも効率が良いのかをCADで組んで、シミュレーションするんです。将来的には、例えば車のような製品のデザインをしてみたいと思っているので、空気や熱の移動、流体について学ぶことは、繋がっていると思っています。

高専は学びたいことを学べる場所だと思ってます。今の研究で言えば、熱なのか、材料なのか、流体なのか、自分が選んでやりたいことができる場所。企業と協力して、もしかしたら自分が設計したものが使われる可能性もあって、それは大きなやりがいになっています。

吉井 陸

(本科5年)

地中熱ヒートポンプの熱移動をソフトを使って解析していますが、本当のことを言えば、今はまだよくわかっていません。先輩から引き継いだ研究ですが、きちんと理解しないと、条件や設定を変更できません。なので、一からヒートポンプについて調べているんですが、まだまだ研究の余地のある分野であることはわかっています。それはモチベーションにつながっていて、これから自分が頑張った分だけ、発展する可能性があるということですから。研究は、とても楽しいです。楽しくないと続かないですよね。

自動車が好きで、将来は自動車に関わる会社に入りたいなと思って高専に編入してきたのですが、今は再生エネルギー関係の仕事をしてみたいと思ってます。高専は、早くから専門的なことを学べるから、より自分の適性に合った道を選べる気がしています。他の高校よりも、自分の将来についてきちんと考えられると思っています。

  1. 01

    NARA

    奈良高専

  2. 02

    HOKKAIDO

    苫小牧高専

  3. 03

    NAGAOKA

    長岡高専

  4. 04

    YONAGO

    米子高専

  5. 05

    MIYAKONOJO

    都城高専

  6. 06

    WAKAYAMA

    和歌山高専

INTERVIEW

高専を卒業した研究者に聞く、
高専で学ぶことの意義。

高専が育む未来 GEAR5.0の現在値