ABOUT

長岡高専について

太陽電池研究のパイオニアとして、
長岡高専にできることは何か。

全国の高専にまたがる太陽電池研究のネットワークに立ち上げの当初から参画し、今もその活動をリードしている長岡高専の荒木秀明教授。GEARにおいても、奈良高専、都城高専と連携し、一次エネルギーである太陽から、効率よくエネルギーを得るための研究を役立てたいと話す。現在よりも太陽電池を広く普及させるために、より資源の多いもの、安価で手に入りやすい材料を研究対象としている。

荒木教授の研究の根底には、「世の中に役に立つような材料を新たに生み出したい」という思いがあり、同時に学生たちにいかにしてその考えを受け渡していくのか。研究と教育が一体となった活動について、話を聞いた。

PROFESSOR

荒木教授インタビュー

「自分で生み出した材料がデバイスとして動作したら、
学生たちも達成感があるだろうと思うんです」

太陽電池について、
具体的には、どんな研究をされているのですか?

荒木

効率が良い新しい材料を探しています。太陽電池の研究を志す人は、大体が電気を専門にしていると思われがちですが、私の研究室の学生たちは化学専攻なので、材料合成をやっています。新しい材料を合成して、それが本当に太陽電池として動けば、嬉しいですよね。なので、授業としては、一緒に太陽電池まで作り上げ、動かすところまで行っています。自分で生み出した材料がデバイスとして動作するところまで研究ができたら、学生たちも達成感があるだろうと。

過去には、実際にうちの研究室でも、いくつか良い材料が見つかっています。もちろん昔から知られていて、太陽電池に使われていなかっただけ、という材料や、多くの人がチャレンジしたけれどもうまくいってなかったという材料なんですが。例えば銅と錫と硫黄の三つだけでも、上手にある比率にしてあげると太陽電池になるんですね。錫でできるのであれば、同じ周期表の縦の列、似た性質を持っている元素に置き換えてやってみようかと。そんな形で研究をしてきました。

デバイスを作るところまでが、研究という考え方なんですね。
荒木先生自身も、学生たちと同じ研究テーマで取り組んでいるのでしょうか?

荒木

そう、同じですね。面白い材料や世の中の役に立つような材料を新たに生み出すことを目標としています。ただ、なかなか新しいものは難しい(笑)。今までは経験と勘に頼ってきたところもありますが、最近ではAIで、ものすごい数をスクリーニングして、有望だと思われるものを実際に合成する、という研究がトレンドになっています。ただ、私の研究室単独では難しいので、自分のできる範囲で、新しい材料を組み合わせることを続けています。世の中に今までなかった材料で、新しく太陽電池が動いたっていう結果が出ると、それだけでもワクワクしますね。

自分の手で一から太陽電池を生み出すことができたという成功体験によって、
学生たちも研究にのめり込んでいくと。

荒木

実際、学生も苦労するんです。なかなかうまくいきませんって泣きついてくる学生もいます。でも、最終的に何か“もの”ができた、結果が得られたというときにはやっぱり嬉しいわけです。その成功体験を得た学生の中には、大学や大学院に進学して、博士を取る人もいる。今年の春に大学に着任して、私の研究室に挨拶に来てくれた卒業生もいます。今の学生たちにとっては、身近な先輩ですよね。その先輩に講演をしてもらったんですが、いいロールモデルになっていると思っています。研究の面白さを知り、もっと深く勉強したいと大学に行き、帰ってきてその面白さを後輩に伝えてくれる。場合によっては、僕の研究パートナーになってくれることもあるわけです。かつての教え子のおかげで、僕自身の研究も広がっていく。すごく楽しい仕事だなと思っています。

社会実装という意味で、
太陽電池にはまだ改善の余地があるものなんでしょうか?

荒木

現状では、かなりのエネルギーを投じてシリコンを作ってスライスし、その中に太陽電池として動作する仕掛けを作り込んで、何枚も並べて一枚のパネルを作っています。でも、もしも刷毛で塗るだけ、あるいは印刷するだけで太陽電池になったら、劇的に普及することが容易に想像できますよね。

今、まさにそういう材料が見つかって、世界中でしのぎを削って研究している状況なんですね。大きなチームで動いているところがほとんどなので、正直、勝負するのは難しいんです。ただ、僕自身が製品になるような成果を出せなかったとしても、学生たちが将来、技術者になったり、エネルギーに貢献できるような人材になったら、嬉しいですよね。

もちろん自分の手で作れたら、最高なんですけどね。

たとえ先端研究をしていても、社会実装を視野に入れている。
つまり、低学年からの教育が、社会まで一本筋が通って考えられていると。

荒木

はい、私はそう考えています。研究の成果だけを見れば、大学と同じかもしれませんが、その関わり方はまったく違います。私の研究室には、7名在籍していますが、これだけの人数ならばどんな課題にぶつかって、悩んでいるのか、把握できますから。学生たちがどんな未来像を描き、どんな社会を作っていくのか、その際にどんな技術が必要なのか。一緒に構築していくのが高専にとっての教育だと考えています。

STUDENT

学生インタビュー

3人の学生が語る、
高専での研究生活と未来像。

高橋 昌也

(専攻科1年)

レアメタルフリーのミニモジュールの作製をしています。レアメタルを使った際の性能を担保したまま、資源的制約にとらわれず、長期的に利用できるように、レアメタルではない素材にしたいんです。膜厚や合成の順番を変えて、可能性を探っています。

小学校の理科の実験で扱ったのかな、半導体に興味があったんですね。高専では、いろいろなデバイスに触れることもできますし、大学で扱うような装置を早い段階から使えるので、習熟度が違うというか。卒業して就職をした時のエンジニアとしてのベースを作ってもらっているような感覚もあります。

茂田井 大輝

(専攻科2年)

真空中で金属などを蒸発させることで、半導体薄膜を作っています。クオリティの高い薄膜の製膜条件や材料組成とバンドギャップの相関、得られた薄膜を太陽電池に応用したときに何%発電するかなど、どうやったら発電性能の高い薄膜が得られるかを調べています。

小学生の頃、ベイブレードというおもちゃのコマが好きでした。パーツを組み立てて、一番長く回るコマを作ることに夢中になっていたのですが、今、自分が作っている太陽電池も実は同じなのかもしれないと思ってます(笑)。僕は陸上部なのですが、実はそれも同じかもしれない。一貫したプロセスの中で、試行錯誤を繰り返して、その結果がどう変わるのか。数字を追い求めている点でも同じかもしれない。気がついたら研究にどっぷりハマっていたのは、面白いからなんですよね。今までやってきた研究は、この後もできれば続けていきたいと思っています。

田崎 傑士

(専攻科1年)

化合物太陽電池の分野で、安価かつ無毒な材料を研究しています。現在は、特にゲルマニウムに着目していますが、研究はほとんどうまくいきませんね。でも、だから面白い。大変な時期がほとんどですし、計画を立てても思い通りにはいかない。予想外の現象が起きたときに、どこから来たものなのか、明らかにしていく。わからないことが、わかるっていうのは、とても面白いんです。どこまでもわからない物理現象の中で、どこまでやれるのかは、自分次第。大学と同等レベルの研究ができるけど、見合った自分にならなければ、意味がない。それが、自分で決められる環境だと思います。

長岡技術科学大学で行われた国際会議で、SDGsに関連した研究発表を英語で行いました。優秀プレゼン賞を受賞したのですが、早いうちから学会発表の場に立てることは、明らかにアドバンテージだと思ってます。僕は、研究者になりたい。そう思ってます。

  1. 01

    NARA

    奈良高専

  2. 02

    HOKKAIDO

    苫小牧高専

  3. 03

    NAGAOKA

    長岡高専

  4. 04

    YONAGO

    米子高専

  5. 05

    MIYAKONOJO

    都城高専

  6. 06

    WAKAYAMA

    和歌山高専

INTERVIEW

高専を卒業した研究者に聞く、
高専で学ぶことの意義。

高専が育む未来 GEAR5.0の現在値