ABOUT

和歌山高専について

海外にも発信できる材料として、
イオン液体を主軸に、研究を進める。

和歌山高専の綱島克彦教授が研究するイオン液体には、様々な可能性があるという。企業との共同研究には、綱島教授の歩んできた道のりが大きく関わっている。社会実装を目指しつつ、新しい材料にも取り組んでいく。その両輪のバランスが、大枠での研究を推し進めていくのだろう。

学生たちはそれを実際に横目で学びながら、研究のイロハを身につけていく。その循環を生み出すことが、自由に研究をすることのできる高専の教授の役割だと、綱島教授は言う。

PROFESSOR

綱島教授インタビュー

「まず作って、分析して、評価する。
それが高専教育の基本形だと思ってます。」

どんな研究をされているのでしょう?

綱島

一言で説明すると、イオン液体という液体の材料を作っています。
イオンでできる物質、例えば食塩などがありますが、普通は固体なんです。ところが有機化合物の化学構造をうまく工夫すると、液体になるんです。このサンプルはちょっととろっとしていますが、塩なんです。水でも有機溶媒でも、油でもない液体材料ということですね。で、このイオン液体は燃えにくく、熱に安定的であるので、例えば携帯電話やノートパソコンの電池に使ったり、あるいは電気自動車の電池の電解質に使えるはず。安全性が極めて高まりますから。そういう意味では非常に可能性のある材料で、その辺りを狙って開発を進めています。もちろん多くの研究者がイオン液体に取り組んでいるんですが、我々の特徴は、リンが入っているもの。実験室に行けば在庫が色々と並んでいますが、リンが入ると熱安定性や耐熱性がさらに良くなるんですね。

どうしてイオン液体の研究をされることになったのでしょう?

綱島

元々、私は日本化学工業という化学の企業で働いていたんですね。企業に在籍している間から取り組んでいて、2009年に和歌山高専に着任して、さらに特殊な用途とか、さらに性能を上げるような取り組みを日本化学工業と共同研究という形で今も継続しています。

やっぱり企業としては基礎に近い研究をするのは、いろいろなリスクがありますし、もっと製造に近い仕事をしなければいけない。研究開発はやはりアウトソーシングせざるを得ないんですね。企業の利益のために研究をしなければいけません。高専に来てよかったなと思うのは、やっぱり学生と楽しみながら、もっと自由に新しい材料の研究開発ができる。材料自体は企業からも提供していただいていますし、共同研究という形なので、当然こちらからのフィードバックもある。お互いにメリットがあるように進めていると思います。

企業との共同研究を行うことは、
高専の学生にもメリットがあると思いますか?

綱島

それはもちろんあると思ってます。仮にいい材料ができたとしても、即座に社会実装、商品化できるわけではないんですね。例えば毒性試験をクリアするとか、あるいはリサイクルできるのか、価格とコストの問題もあります。それらいくつもの項目をクリアして初めて、社会実装に至るわけで、我々の研究ではいきなり社会実装を体験することは難しいんです。ただ、学生には、その過程を見せることができる。企業の研究開発がどうやって行われているのか、高専の研究とは観点が違うということがわかるはず。いずれ学生たちが企業に就職したときに、少しでも役に立てばいいなと。そういう意味で、企業の話をしながら自分達の研究を行うのは、私にとっては教育の一環だと思ってます。

高専の授業では追いつかないところ、企業に就職してから学ぶこともたくさんあるんですよ。例えば安全化学のような授業はあまりないと思うんですね。私は授業としてやっているわけではないんですが、実験、研究活動をしながら、「こういうやり方は危ないんだ」とか「この薬品を扱うときにはこうすれば安全に使えるんだ」と。マスクやメガネは、スタンダードにつけてます。安全を考えるのは、とても大事ですから。

学生たちの研究は、イオン液体の作り方から始まるのでしょうか?

綱島

全ての学生ではないですが、今は多いですね。私の考えでは、材料をテーマとする高専生にすごくマッチする研究のやり方としては、まず作って、その作ったものを分析して、何の役に立つのかを考えながら評価する。それが基本形だと思ってます。分析に特化した研究テーマもあるとは思うんですが、やっぱりモノを作って、そのモノを調べていく、確かめていくのが高専生には合うのかなと思います。実は試しに分析に特化したテーマを与えてみたこともあるんです。すると、やっぱり苦しむんですね。

作って分析して評価するという一連の流れを経験すると、勘のいい学生なら次は自分でこれやろうとか、これをやっていいですか?と自主的な動きが加速していく。もちろん学生さんのペースは様々なので、それぞれに応じて、この物質がいいかな、こっちがいいかなと差配しているところはあります。やっぱりいきなりゼロスタートで新しい材料の開発をするのは、専攻科に残る意志のある学生で、ある程度の期間で取り組めないと難しかったりもしますから。

やっぱり高専生は基本的には手を動かしたい、実験が好きという子が大多数。でも稀にコンピューターが好きという子もいますから、そういう学生には、コンピューターシミュレーションをやってもらいます(笑)

高専の一つの特徴でもある地域性という意味で、
このイオン液体と和歌山という土地を語ることはできますか?

綱島

うーん、それは難しいですね。イオン液体に関しては、むしろ海外も含めて広く外に向けての材料として位置付けています。

地域貢献という意味では、紀伊半島沖の南海トラフに、メタンハイドレートという天然ガスがあるんですね。和歌山県が調査をしているんですが、その調査船に同乗したり、地元の小中学生に公開講座をやったりしています。実は、そのハイドレートという物質とイオン液体が関連する研究があったのを見つけたんですね。それで、イオン液体の技術、合成技術を応用して、ハイドレートの方に展開しています。そういう新しいテーマも、地域の特性からヒントを受けて、最近始まってますね。

STUDENT

学生インタビュー

3人の学生が語る、
高専での研究生活と未来像。

長谷川 駿

(専攻科2年)

普通なら固体なのに、液体化するっていうイオン液体のロジックに、すごいことをやっているんだなと思って綱島先生の研究室に入りました。実験も毎週のようにするし、知識を実践で体験的に身につけているという感覚は強いです。実験では、もちろん失敗しないように努めるんですが、失敗を恐れない。とりあえず、挑戦する。そういう気持ちを教わっている気がしています。

卒業後の就職も決まっているのですが、有機材料、イオン液体とは少し分野が違います。他のことにも挑戦してみたいという気持ちで選んだのですが、少しは繋がっているはずですし、とっつきやすいのではと思ってます。

それから高専は、専攻科まで進めば7年間通うので、友達とのつながり、結束力も強いです。それも高専を選んでよかったことの一つです。

赤松 兵馬

(専攻科1年)

4年生の時に説明を聞いて、「面白そうやな」と綱島先生の研究室を選びました。今は、天然物質系を用いたイオン液体を作ってます。昨年、ようやく純度の高い液体を作れる合成ルートに成功したので、今年はいろんな展開ができると思ってます。イオン液体は汎用性が高い。不燃性で、安定性も高いので、潤滑油としても使える。自分が作りたい性質を持ったイオン液体を作ろうと思えば、本当に様々なバリエーションが作れるんです。自分が欲しいものをデザインして、ヒントを得て、さらに改良していける。でも、どんな研究でもやっぱり計画性が重要で、そうしないと時間がいくらあっても足りないんですね。それもまた、この研究室で学んだことの一つだと思います。研究の計画の立て方。計画性。進学するなら、違う研究もしてみたいですが、せっかくなので今の延長線上にある研究をしたいと考えてます。

東 さくら

(専攻科2年)

プレ研究体験の時に、メタンハイドレートの研究に携わって、それがすごく面白かったんです。海底の地下何千メートルからパイプを伝ってメタンハイドレートを採るんですが、途中で詰まってしまうと。それを溶かすものは何か?という研究をしてきました。イオン液体を含めたいろんな液体を試したのですが、結果としては、アルカリ性のOH-が効いて、かつ海にも安全ということで、温泉水が良いのではという結論が出ました。その研究を通して、考える力がついたかなと思ってます。それから結果をまとめて、報告するという力も。

子供の頃から、「なぜ、この色なんだろう?」みたいなどうでもいいことに疑問を持つ子供だったんです。母に勧められて高専の体験授業を受けて、「ここだったら5年いける!」と。結果、退屈はしなかったですね(笑)。週に一度は実験があって、それがリフレッシュになる。そこで計画性も学びました。一度始めた実験は、止められないですから。

  1. 01

    NARA

    奈良高専

  2. 02

    HOKKAIDO

    苫小牧高専

  3. 03

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  4. 04

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  5. 05

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    都城高専

  6. 06

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    和歌山高専

  7. 07

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    鶴岡高専

INTERVIEW

高専を卒業した研究者に聞く、
高専で学ぶことの意義。

高専が育む未来 GEAR5.0の現在値